新聞記事

佐賀新聞 2004年10月27日掲載

有明抄

佐賀に伝わる敷物に鍋島緞通がある。
木綿のじゅうたんで、色染めした木綿糸を縦糸にからみつけて、一定の長さで切り、一段終わるごとに横糸を通して締め付ける。これを繰り返して仕上げる。

元禄年間、中国から技法がもたらされ、扇町(現佐賀市嘉瀬町)の古賀清右衛門が織り始めたとされる。
鍋島藩は一般の売買を禁じ、幕府への献上品にした。明治以後は次第にすたれたが、現在は佐賀市内にギャラリー兼工房がある、戦後、久留米市に移転した織物会社が開いているものだ。

大庭香代子さん=福岡市=は個人で鍋島緞通の制作に取り組んでいる数少ない作家の一人。
西部工芸展を中心に活動しており、「人肌に優しく、清涼感があり、和風にも洋風にも合うすばらしい敷物」という。

彼女の本職はグラフィックデザインで、日本デザイナー学院九州校(福岡市)の校長でもある。
約二十五年前、まだ講師だったころ、人を介して先の織物会社で機械織りのデザインにかかわったのが出会い。
十数年前に職人さんから手織り技法を学んだ。根気のいる仕事で、普通サイズ(横百九十一センチ、縦九十五センチ) でも「一日六十センチ程度。学校もあるので、三ヶ月もかかる」

大庭さんは伝統柄の「蟹牡丹」「牡丹」「芍薬」なども「当時としては最先端のデザイン」と解釈。
「今という時代の空気を吹き込みたい」とシンプルでぼかしの入った作品にチャレンジしている。

室内や玄関。茶席の敷物として最適だが、全国的には認知度が低い。手織りだから価格が高い。
「制作に興味を持つ人はいるが、生活が成り立つ保証がなく、なかなか勧められない」と悩み。
「伝統ある工芸品だから行政も積極的に手伝ってほしい」という大庭さんの願いだ。

筆者:保坂晃孝

夕刊 讀賣新聞 2006年3月10日掲載

筆者:長谷川法世

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